第２章　Windows3.0の誕生

　歴史にあまり興味のない人は読み飛ばしてくださってもかまわないのですが、話の順序として、Windows3.0が誕生するまでの「いきさつ」について、かけ足で触れておくことにしましょう。

●アルト／スター

　Windows3.0のような「電子のデスクトップ」環境を実現するための工夫は、いわゆる「ワークステーション」と呼ばれる分野のコンピュータ−−つまり現在のパソコンよりワンランク上の世界で、1970年代に発祥しました。
　具体的には、1972年にアメリカのゼロックス社のパロアルト研究所 (PARC) で誕生した「アルト」という機械が第１号。これは今では「パーソナル・コンピュータの教祖様」みたいな存在となっているアラン・ケイという人物が中心となって開発された機械で、たとえば次のような特徴を持っていました。

• 解像度の高いビットマップ方式……画面上の１ドットごとを細かく制御できる、いわゆるグラフィック表示の画面。
• そのビットマップ画面の任意の位置を簡単に指し示すことのできる“マウス”。
• 画面が「ウィンドウ（窓）」単位で仕切られ、個々のソフトウェアはそのウィンドウ一つ一つの中で動作する、という画面設計上の工夫。
• “オブジェクト指向”といわれる、人間が何か仕事をしようとするときの指向の流れに自然に呼応する操作体系。

　……などなど。要するに、
“お金に糸目をつけない覚悟さえあれば”
“日本語が扱えなくてもよいのであれば”
“その機械で動く、自分の仕事に必要なソフトウェアを自力で開発するか特注する覚悟があれば”
　という条件つきではありますが、「仕事机」のような環境をそのまま持ち込むことのできる“ユーザー・フレンドリー”なコンピュータは、もう20年近く前からあらかた実現されていたというわけです。
　このアルト自体は試作機の要素が強いものでしたが、1977年には同じコンセプトを継承した「ゼロックス・スター」というコンピュータが登場し、これは市販もされました。ただし価格は１万７千ドル近く、この点はあんまり「ユーザー・フレンドリー」とは言いかねたのですが……。

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